第11回 取り返しがつかなくなる前に(下)

初出:ラブピースクラブ 2016年11月2日

 

 

そのうちズキズキと痛むようになり、腫れがひどい日は膨れ上がって水ぶくれのようになり、異様に膨れ上がった手指の第一関節……見るからに気味が悪い……。

60代の頃、当時は山梨にいた母の指と同じです。

 

「近所の奥さんたちもなっているのよ。水が悪いのかしらって言ってるんだけどね」

 

と、母は気にしていましたが、東京に戻ってきてからも良くなる気配はありませんでした。

手の綺麗な人だったのでかわいそうだなあ、と思いましたが、私の指もいつの間にか母とそっくりになっていたのです。

東京から出たことのない私もかかるということは、母が住んでいた地域の水のせいではありません。

 

張りつめた皮膚が痒くなるほどでした。

次第に関節を曲げにくくなり、完全に曲げることはできなくなりました。

明らかに両手の人差し指の第一関節が変形していたのです。

痛みに耐えかねてリウマチ科に行きましたが、リウマチではないと言われ、若い女医さんに「年齢でしょう」と突き放され、良くなる見込みはないのかと落胆しました。

 

この症状、ヘパーデン結節といって、40歳代以降の女性に多く発生する原因不明の病気と言われています。

指を酷使する人に多発するそうですが、母は洋裁、私はパソコン作業をやりづめだったので、かかりやすかったのかも知れません。

今では人差し指だけ完全に曲がってしまい、人前で手を出すと目を引いてしまうので、手を隠すこともあります。

おそらく内部で関節が壊れてしまっているのでしょう、無理にひっぱっても人差し指は真っ直ぐになりません。

 

ごく最近になって、ヘパーデン結節の発症は女性ホルモンの減少と関係があることがわかってきました。

女性ホルモンだけがすべての原因ではないので、更年期障害のうちには入らないそうですが、中高年の女性に多く見られるのは、これが原因だったのですね。

つまり私がリウマチ科と整形外科だけ行ったのが間違いで、産婦人科に行くべきだったのです。

 

こうしたことは、あらゆる更年期障害、そして年代を問わず女性ホルモンの低下を原因とする症状に起こり得る悲劇です。

ふつう息切れ、動悸がひどければ内科に行きますよね。

不安症状や無気力がひどければ心療内科などに行くでしょう。

めまいがひどい人は脳神経内科に行くかも知れません。

もし、その原因が急激な女性ホルモンの低下にあったとしても、それには気づかないまま私たちはさまざまな科を受診してしまいます。

しかし、女性ホルモン不足という原因には行きあたらないので、対症療法を重ねながら、

 

「いつまで経ってもスッキリしない」

「私はいったいどこが悪いのだろうか?」

「もしかして、人より早く老化が始まっているのだろうか?」

 

と、悩みをかかえて複数科を受診することになります。

いろいろな科で検査を受け、薬をもらい、それでいていつまでも「女性ホルモン不足」という最大の原因には行きあたらないのです。

つらい症状に苦しみながら、医療費もかさみます。

私自身も、指の変形では病院を変えて受診し、その間にしつこい頭痛とめまいも起こして、別の大学病院にもかかっていました。

 

一例ですが、内科、整形外科、心療内科で、不整脈、高血圧、骨粗鬆症等の治療薬、自律神経調整剤、消炎鎮痛剤、入眠剤、便秘薬などをもらっていた女性の場合、それまでにかかっていた薬価は一日合計で1,404円(薬価計算)にもなっていたそうです。

ところが、HRT(ホルモン補充療法)を中心に、漢方薬、ゆるやかな精神安定剤の3つに切り替えていった結果、一年後の薬価は一日合計170円にまで下がったという報告もあります。*1

 

家計に与える負担が小さくなるのは何よりうれしいことですが、国家予算(健康保険)への負担も大幅に軽減されることになります。

個人にとっても国にとっても大きなプラスになることは間違いありません。

しかし問題は、どんなきっかけ・タイミングで更年期治療をはじめるか、ということです。

内科や心療内科の外来で、「では女性ホルモン量の検査をしましょう」と言われる可能性は限りなくゼロに近いでしょう。

つまり、女性ホルモン量は自分自身で管理しなければならないということです。

 

私は自分のホームページでも提言*2していますが、女性ホルモン量の検査を地方自治体や企業で行う健康診断、または人間ドックなどに組み入れるべきだと考えます。

まれに人間ドックに組み込まれている病院を見かけますが、その数はとても少ないのです。

一方、子宮頸癌検査などは、人間ドックのレディースオプションには必ず入っていますし、自宅で検査して郵送できるキットなどもあり、その早期発見に役立っています。

女性ホルモン値検査も、せめて人間ドックのレディースオプションには組み入れられるべきだと思うのですが、どうでしょうか。

 

日々、どうしても目につく曲がってしまった指先を見るたびに、もっと早く(ヘパーデン結節を起こす前に)更年期治療をはじめていればよかった、HRTを受けていれば指の変形もこんなに早く進まなかったのではないか、と後悔ばかりが先に立ちます。

しかし、まだ40代のころの私は、「もしかして、更年期障害?」と考えることすらイヤでした。

それは年齢に負けてしまうことだ、もっとアゲレッシブに生きたい!

気合いを入れて生活していれば更年期など来ないのではないか……と、そんなふうに思っていました。

あのとき、意地を張らないで婦人科にかかっていればよかったのに。

 

このコラムを読んでいる皆さんには、私のような後悔をしてほしくありません。

私が更年期治療に踏み切ったのは、知り合いの編集者さんが、

 

「更年期障害による鬱で、会社に行こうと思っても家から出ることもできなくなって、それでHRTをはじめたんですよ」

 

と話してくれたことがきっかけでした。

よく、更年期は親の死に目と重なると言いますが、私もそうで、53歳のときに母親が急死しました。

母がいなくなって初めての母の日を迎えるのがつらく、何か前向きに過ごせる方法はないかとネットを見ていて、NPO法人女性の健康とメノポーズ協会*3が平成24年の母の日に、第一回目の「女性の健康検定」という資格試験を行うことを知り、受験しました。

この時から更年期について学ぶようになったのです。

協会には健康対話士という資格者がいて、電話相談にも応じています。

協会のホームページに電話番号がありますので、「もしかしたら……」と悩んでいる方は相談されてみてはいかがでしょうか。

 

一年間、お話させていただいたこのコラムも最終回となりました。

自分の女性としてのイベントを思い返してみると、27歳と31歳で出産(4400グラムと3900グラム、大きな子を自然分娩しました)、妊娠中絶、子宮頸癌で子宮全摘出、とそれなりにいろいろありました。

次々と大変なことがあり、「これは何の罰ゲームなの!?」と悲しくなったこともあります。

 

女性の一生は産めば産んだで苦労があり、産まなかったら産まなかったで苦労があるものです。

それなのに、「産んだら産みっぱなしで母性愛に欠ける」と非難される人もあれば、「子供を産んだこともないから愛情が乏しいのだ」と言われる人もいます。

どちらの発言もその人を傷つけ、否定するものですし、なぜ女性だけがこのように厳しく評価されなければならないのか、と心が痛みます。

 

前に、女性はまだ自分が母の胎内にいるときに、すでに700万もの卵胞細胞を持っているのだ、というお話をしました。

そのような生命の神秘を抱いて生まれてくるすべての女性は、それだけで祝福されなければいけないし、尊重されなければなりません。

 

その第一歩として、女性ホルモン値検査の健康診断への組み入れを是非、国、東京都をはじめとする地方自治体に検討してほしいと願います。

すべての女性が活躍できる国を目指すのであれば、ちょうど要職に就く年代の女性が更年期を経験することを重要視し、更年期障害の問題に国を挙げて取り組んでほしいと願います。

今年も残すところ少しとなりましたが、来るべき年にかけて、微力ながらこの提言を続けていきたいと思っております。

最後になりましたが、皆さま方のご健康を心よりお祈りして―。

201611

神田つばき

 

*1 NPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」ホームページより引用 http://www.meno-sg.net/?page_id=1272

*2 「すべての女性の活躍のために女性ホルモン値検査を」 http://sinjuiro.jimdo.com/

 

 

*3 NPO法人「女性の健康とメノポーズ協会」ホームページhttp://www.meno-sg.net/