第4回 女性ホルモン値検査とHRT
初出:ラブピースクラブ 2016年4月6日
「もしかして更年期?」と一度でも思ったら、ぜひ女性ホルモン値検査を受けることをお薦めします。
また、女性ホルモン値で発見できる症状は更年期障害だけではありません。
PMSなどで苦しんでいる若い人も、この検査で治療法が見つかることがあります。
女性ホルモン値検査で調べることのできるホルモンには、次のようなものがあります。
l エストロゲン(卵胞ホルモン)……着床が起こりやすいように子宮内膜を厚くするホルモン。女性らしい体つきや肌の美しさを保つ働きもある。
l プロゲステロン(黄体ホルモン)……排卵を終えた卵胞が黄体化すると分泌され、体温を上げるなど受精卵の着床をサポートする。
l FHS(卵胞刺激ホルモン)……卵胞が排卵できるようになるまで成長をうながす性腺刺激ホルモン。
l LH(黄体形成ホルモン)……排卵をうながし、エストロゲンとプロゲステロンの分泌を促進する性腺刺激ホルモン。不妊症・月経異常・更年期障害を発見できる。
l AMH(抗ミュラー管ホルモン)……発育過程の卵胞が分泌するホルモン。このホルモンの量からおよその卵子の数を予測できるので、妊娠力を調べることができる(卵巣年齢検査)。
l プロラクチン……産後、母乳を出すように指令を出すホルモン。「授乳しているうちは妊娠しない」のも、このホルモンの指令によるもの。
どれも、女性にとって必要かつ欠かせないなものばかりです。
更年期にかぎらず、女性にとって、女性ホルモンの分泌量を調べることが、どんなに大切かわかります。
生理が飛び飛びになる人や、PMS(月経前症候群)に悩んでいる人も、がまんしすぎないで、女性ホルモン値検査を受けてみるといいのではないでしょうか。
検査は腕からの採血で簡単です。
受けられるのは産婦人科ですが、検査後に治療を受けることになった時に通える病院がいいでしょう。
病院が変わると、あらためて検査を受けることになり、また費用がかかってしまいますから。
私が検査を受けたのは53歳の誕生日の直前でした。
当時、私は更年期障害に(それが更年期障害だとは知らずに)数年間悩まされていました。
たまたま打合せで久しぶりに会った編集さんから、
「更年期障害がひどくて家から出られず、会社に行くこともままならなくなった。産婦人科でホルモン補充療法(HRT)を受けて、やっと普通に出勤できるようになった」
という話を聞いたのです。
目からウロコでした。
このときはじめて「もしかして、私も更年期?」と思ったのです。
のんきな話で、排卵がなくなってから3年も経っていました。
そのころ私は、仕事にも遊びにも「出かける」という行動がとれずに困っていました。
出かけるために交通機関を調べて家を出る時間を決める、シャワーを浴びて髪を乾かして、お化粧をする、その日会う相手に渡すものや、電車の中で楽しむ本や音楽を準備する……という一連の行動がうまくできないのです。
時刻表を調べていると、急に化粧が気になり……
化粧が済まないのに、思いついたものをバッグに入れに行く……
しかも思いついたものが見当たらず探し回る……
そんな右往左往を何度も繰り返した挙句、やっと玄関にたどり着くと鍵が見つからずに家から出られない……!
そんなふうなので、人と時間を約束して出かけることが大変な苦痛でした。
原稿仕事の注文が減りはじめ、何とかしないといけない状態です。
編集さんの話をきくまで、こんな鬱病のような症状が、更年期障害によるものだとは、私は想像もしていませんでした。
でも、それでも私はまだ病院に行かなかったのです。
女性ホルモンを補充するなんて、不自然なことではないか……?
子宮頸がんをやった自分は、乳がんリスクが高まるのではないか……?
人工的に女性ホルモンを補充したら、体はもう自然にホルモンを作ろうとしなくなるのではないか……?
そう、私はまだ、
「自分の身体は条件さえ整えてあげれば、また女性ホルモンを分泌してくれるはず」
と信じていたのです。
頑固な私が産婦人科に行く決意をしたのは、NPO法人女性の健康とメノポーズ協会の検定直前講習に行き、更年期女性の体の中で何が起こっているかを初めて知ってからでした。
女性ホルモンは、女性が健やかに美しく生きていくために重要なものですから、脳の視床下部は「女性ホルモンを出荷してね♪」と卵巣に指令を出します。
ところが更年期女性の場合、卵巣からは「すみません、充分な在庫がありません」というお返事しか返ってこない、という生産ラインの事故みたいなことが起きてしまうのです。
それでも視床下部は「女性ホルモン足りてないじゃん、出して出して~!」と性腺刺激ホルモンを出し続けますが、卵巣も「そんなこと言ったって、一生分、全部使っちゃったもん!」としか言えないわけで、既読無視が続く。
やがて視床下部は「どういうことなの、これは!?」と、パニックを起こします。
視床下部は、自律神経系や免疫系の中枢でもあるので、自律神経のバランスが崩れて、のぼせたり激しく発汗したり、動悸が起きたりする……こうして更年期症状が起きるわけです。
やっと産婦人科に行った私は、エストリオール錠というエストロゲンを補充する錠剤を処方されました。
小さな白い錠剤を一日一つ飲むだけです。
こんな簡単なことで……と拍子抜けするほど、体調がよくなりました。
パニックを起こすこともなくなりましたし、起床時の体のこわばり、目や口の渇きもなくなりました。
(私は子宮を頸癌で全摘出しているのでエストロゲン単独ですが、子宮がある人は黄体ホルモンも服用します。)
私が気にしていた乳がんの罹患リスクですが、現在ではHRTが直接的に乳がん発症率につながるとは考えられていないそうです。
ただ、私が癌家系だということが考慮されて、
l 5年以上継続しないで、時々お休みしたり、漢方薬に切り替えたりして様子をみる
l 1年1回以上、乳がんの検査を受ける
という2点を約束して、結局9ヶ月のあいだエストリオールを処方してもらいました。
この9ヶ月に取り戻したものは大きかったです。
ふつうに、朝から夕方まで元気に働けるということが、こんなに楽しいことだったとは、という気持ちでした。
悩んでいた症状のほとんどはHRTで解決しましたが、中には手遅れのものもありました。
3年早く始めていれば……と、今でも激しく後悔しています。
次回はそのお話をしたいと思います。
女性ホルモン値検査を受けるタイミングはとても重要で、私より若い女性の皆さんには、体が出しているさまざまなSOSを見逃さないでほしいな、と思うからです。