第7回 女性器にも起こる「廃用萎縮」

初出:ラブピースクラブ 2016年7月6日

 

 

実はこの春から仕事の環境が変わり、ほとんど余暇の時間がありませんでした。

気がつけば桜の時期からずっとセックスをしていない……

こんなこと67年ぶりです。

「閉経したみたい」と感じた50歳のころから、月に1度はセックスするようにしていました。

これと言った理由があったわけではないのですが、若い時とは違って、セックスからあまり長く遠ざかると、そのまま無縁になっていくような気がした、というだけなんですけどね。

 

ところが、これが現実にあることだと知ってびっくりしました。

雑誌の取材で婦人科の先生にお話を伺ったときに、

 

「長い期間使わない筋肉などが萎縮することを廃用性萎縮と言うんだけど、それって女性の性器にも起こるのよ」

 

と聞いて、思わず目が点になりました。

それまで私は、アソコが年齢とともに締りがなくなっていく、という心配しかしたことがなかったのです。

しかし先生は、

 

「違うのよ、いざセックスしようと思っても広がらなくなるの。50代の女性だと、1年間セックスしなかっただけで、指1本入るのがやっと、という例もあるのよ」

 

と、怖いことをおっしゃるではありませんか。

そうなったらもはやペニスは痛くて入らないということです。

 

だいじなアソコが萎んで、縮んで、固くなってしまう……。

怖い以前にとても悲しい現象ですね。

 

一般的に「廃用症候群」と言えば、身体を使わないことから起こる機能低下のことを指します。

高齢になって骨折や病気が原因で長く介護・介助を受けたりしているうちに、関節の動く範囲が狭くなって関節拘縮を起こしたり、筋力が低下したり、意欲や記憶力が低下する例などがあります。

そのまま寝たきりになってしまうこともある、高齢者にとっての大きな問題です。

それは知っていましたけど……

 

それと同じことが女性器にも起こるなんて、考えたこともありませんでした。

でも、考えてみたら女性器は膣という筒だけではなく、骨盤底筋群などが膣を取り巻き、支えているのですから、筋肉たちが柔軟に収縮すればするほど自分も相手もセックスが気持ちいいわけです。

俗に言う「ヒクヒクする」とか「痙攣する」というのは、男性にとっても女性にとっても「気持ちよさ」の重要な部分なんですね。

 

うっかりしていましたが、セックスしないまま春が過ぎ、夏に入っちゃった……

ずっとこのままでいると、もう「ヒクヒク」どころかピクリともしなくなっちゃうのか……

 

と、さすがに心配になり、せっせとオナニーしていますが、面倒くさがりな私は「早く・確実に・ドカンと」イケる電マをクリトリスに当ててしまうので、あまり膣の萎縮の予防にはなっていないかも知れませんね。

ローターや電マでオナニーしたい人も、バイブやダイレーター、あるいは指を膣に入れた状態で行ったほうが、膣を取り巻く筋肉の活性化につながると思います。

 

セックスをしなくなってからの悩みがもう一つ。

外陰部の乾燥がひどいのです。

どのくらいひどいかと言うと、一日仕事で出かけていると、自分のオシッコが外陰部に沁みるのです。

「ああ、シャワー浴びたい」と切実に思うほど沁みて、ほんとうにつらい!

しかもボディソープで洗うとよけいひどくなります。

NPO法人「更年期と加齢のヘルスケア」学会の小山嵩夫理事長によれば、

 

「男性の努力も必要ですが、定期的に性交することで膣が広がり、粘液を分泌する能力も戻ります。「挿入」の代わりになる道具も相談されればご紹介しています。ただ、若い時のような弾力性は次第に失われる――これだけは自然なことなので仕方がありません」*1

 

ということです。

確かにこれまでは、「濡れにくい」「濡れ方が足りない」という感じはあったけれど、「日常生活の中で乾燥がきつくてつらい」ということはなかったのです。

前に、「セックスしたからと言って、女性ホルモンの分泌がふえるわけではない」と書きましたが、セックスをすることで保たれていた健康、というのもあったんだ、と今回は思い知りました。

 

性器に関する問題とは別ですが、セックスをしないと睡眠が浅くなることも、私の場合はかなり深刻な問題です。

生まれてはじめて睡眠導入剤を飲みましたが、規定量を飲むと朝起きてからもボーっとする、半量に減らすと何とか眠れても深くぐっすり眠った感じがしない……と、あまりうまく行きません。

セックスをして、身体を緊張させたり弛緩させたりを繰り返し、パートナーと愛情を確かめ合った後の眠りに勝る贅沢な睡眠はないんだな~、と思いました。

 

何が言いたいかと言うと、女性の中には、

「もう膣が萎縮したってかまわない。治そうとは思わない」

とおっしゃる方も少なくないのです。

30代の女性でも、「もう出産したからセックスしなくてもいい。膣なんか一生使わないから、廃用萎縮したって平気」と言う人もいます。

その気持ちもすごくわかります。

必ずしも夫とセックスの相性が良い人ばかりではないですし、お産が重かった人の場合はセックスに対して楽しいイメージを持ち続けにくいです。

私自身もセックスレスだったり、初産で4400kgの巨大児を自然分娩したり、いろいろありました。

性に関して人の意見を押しつけられるほどイヤなことはないので、「幾つになってもセックスしたほうがいいわよ、しなさいよ」などとは、私は言えません。

自分も人からそんなふうに言われたら良い気はしないと思います。

 

ただ、もしも……

「素敵な人だな。もっと仲良くなりたいな」と思う男性が人生の後半で現れて、身体を許し合えたら、若かった頃とはまた違う性の悦び、楽しさがあるような気がするのです。

どうしたって年々老いていく自分の容姿や身体に、少しでも良さを見出してくれる人がいてくれたら、更年期以降の人生も幸せなものになっていくと思うのです。

 

更年期は、まだまだ老いには距離があります。

しかし、人生の最後まで女性でいられる可能性を、早々に閉じてしまわないでほしいな、と思います。

その鍵というか分かれ目は、更年期にあるようです。

 

元日本家族計画連盟理事の石濱淳美先生の『人の一生の性―その自然なありようを探る』*2という著書に、女性器の廃用性萎縮に関する記述があります。

 

「生殖年齢が過ぎると性器にも老化が起き、機能も低下する。外陰全体は閉経後3年目くらいからきわめて徐々に萎縮が始まり、血管分布や弾力線維の減少、陰毛の減少と灰白化、脂肪の減少などが続いて、70歳を過ぎるといわゆる老人性外陰となる」

確かに私は閉経後、少しずつ大陰唇のふっくら感がなくなり、陰毛も薄くなってきました。

みすぼらしくて、お風呂に入るたびにガッカリしてしまいます。

これは目に見える外性器の変化ですけれども、

 

「膣の変化が最も大きく、高齢者では粘膜の薄化、平滑化、狭小化それに皺襞の消失などによって膣は拡張し伸展性が著しく減退する。

また閉経後はエストロゲンの減少によって膣上皮細胞の角化作用が止み、細胞の糖原生産も減少して膣内はアルカリ性に傾く。その結果細菌に対する抵抗力も弱まり、膣の自浄作用が破壊されて老人性膣炎を起こし易くなる」

 

と、続きます。

前に書きましたが、無理に「ズドン!」と挿入されると、後から膣がヒリヒリ痛い、ほんとうに膣炎にかかりやすくなりました。

それで余計にセックスを尻込みしてしまう人はたくさんいるでしょう。

できれば、ローションやゼリーを積極的に使ってくれる男性がいいなあ、と思います。

これは人によって感じ方が違うと思いますが、私は、

「こういうものを使う年になったんだよ、気にしなくていいよ」

と言われると、それは事実なのでいちいち傷つきはしませんが、セックスを楽しむロマンティックな気分は醒めてしまいます。

それよりは、

「このほうが感じるから」とか、

「今日はいっぱいしたいから」とか、

「こういうの使うとどうなっちゃうのかな?」

と言ってくれたほうが、特別感があって気分が盛り上がります。

 

女性器へのケアは早くから意識するに越したことはありません。

これは私自身が大いに後悔していることです。

石濱先生の著書によれば、

 

「また閉経後はエストロゲンの減少によって膣上皮細胞の角化作用が止み、細胞の糖原生産も減少して膣内はアルカリ性に傾く。その結果細菌に対する抵抗力も弱まり、膣の自浄作用が破壊されて老人性膣炎を起こし易くなる。

バルトリン腺分泌の減少と共に膣壁血管の老化から膣粘滑液が減少して膣は乾燥してくる。こうした老化や萎縮は廃用性萎縮だから年齢や未婚既婚には関係なく、定期的にセックスしている女性では閉経後10年たっても起こらない場合もある」

 

ということです。

最近、過去の日記を読んでいたら、46歳のときに膣炎で産婦人科にかかった記述がありました。

私は当時、性病恐怖症だったので検査してもらったのですが、それは陰性で、

「年齢的なものがありますね。女性ホルモンを入れておきましたから」

と言われた……と日記に書いているのです。

性病ではなかった、ということは記憶しているのに、女性ホルモンのことはまったく覚えていません。

せっかくお医者さんに指摘されていたのに……。

46歳と言えば、ちょうど更年期の入り口だったのに、いかに私が無頓着だったかがわかります。

 

このときに女性ホルモン量を定期的に検査していれば、いろいろな症状に苦しむ前に、適切な治療を受けていたかも知れません。

そんな私の後悔と反省もありまして、このコラムを読んでいる皆さんには、性器の美と健康にも気を配ってほしいな、と心から願っています。

また、パートナーとの性行為は、性器のアンチエイジングに効果をもたらすことも、ぜひ心に留めておいてください。

 

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*1 「KERAKU 大人の性を愉しむために」より引用。http://www.keraku.jp/read.html

*2 NAVERまとめ「高齢者の性~男女性機能の老化」より引用。http://matome.naver.jp/odai/2142320727110174201